レポート
木のぬくもりが、子どもたちの心を育てる
~ 小田原市が進める「学校の木質化」で見えてきた未来の風景 ~
小田原市の面積のおよそ4割を占める森林。
このまちでは、木は特別なものではなく、暮らしのすぐそばにある自然です。
小田原市では、平成30年から市内の小学校で内装木質化に取り組んできました。
教室や廊下にスギやヒノキといった小田原産木材を取り入れ、児童の皆さんが日常のなかで木に触れ、ぬくもりや香りを感じながら学べる環境づくりを進めています。
その背景にあるのが、「木育」という考え方です。
今回は、令和7年に木質化が行われた富水小学校を訪ね、先生や児童の皆さん、そして事業を支える市の担当職員に話を聞きました。木のある学校で育まれている、やさしくてあたたかな日常と、小田原ならではの「木」の魅力をお届けします。
小田原の小学校一覧表
「あれ、なんだか空気が気持ちいい」
教室の扉を開けて、一歩足を踏み入れた瞬間、「あれ、なんだか教室の雰囲気が柔らかい」ふとそう感じました。
理由は分からないけれど、体感して分かる変化。視界に入るのは、床や壁、机に使われた木のやさしい色合い。それだけでなく、空間そのものが、少しやわらかく、少し温かく感じられました。
ここは、小田原市内の富水小学校。
令和7年8月に校内の木質化が施された、地域の木に囲まれた学びの場です。
温度や湿度は以前と同じでも、空間そのものが変わっているかのように感じられる。
木の教室には、そんな“空気のちがい”があります。
なぜ、いま“木の教室”なのか
― 小田原市が目指す、子どもたちの未来のための環境づくり
小田原市では、近年、地元の木材を活用した公共施設の整備に取り組んでいます。
なかでも特に力を入れているのが、小学校の教室や廊下などの木質化事業です。
小田原市はどうして小学校の木質化を行うのか。
その思いに迫るため、実際に小田原市農政課で林業を担当している職員に話を聞きました。
木質化のきっかけは?
小田原市の小学校木質化の始まりは平成30年。
それまで小田原産木材は虫害や節などにより、合板やチップの材料として利用されており、無垢の建築材料としてはあまり流通していませんでした。
森林は、「伐って、使って、植えて、育てる」という人工林のサイクルを回し、適切に整備・利用することで、森林の持つ土砂災害の防止、水源涵養(緑のダム)、二酸化炭素の吸収による脱炭素社会の実現などの機能がしっかりと発揮されるため、小田原市では、市民が身近に利用できる施設であり、教育環境の向上や木育の推進に期待できる、小学校を対象に小田原の木材を利用した木質化が行われました。
また、森林の伐採から製材・施工に至るまで、全て市内で取り組んでいることが、特色の一つです。
木材を活かす工夫を教えてください
それぞれの木の良さを子どもたちに感じてもらうために、同じ種類の木でも「赤身」や「白太」など色の違いを利用して組み合わせることで教室ごとに違いを出しています。
また、教室のプレートは伝統工芸の手法が使われており、地元の若手職人が一つ一つ手作りしており、児童への思いも込められています。
スギとヒノキが使われている教室の壁
富水小学校木質化のこだわりはどこですか?
富水小学校の特徴は、1階の特徴的な階段(シンデレラ階段)から繋がる2階にある昇降口です。
木質化によって学校の顔となる昇降口に多くの木が使われ、明るく温かみがあり、ヒノキの良い香りが広がる空間になっています。
木質化の後には、余った木材を利用して、学年ごとに一枚のアートパネルを作るワークショップも行いました。児童の皆さんの作品は、学校内外の方々に木の良さを感じてもらうために、道路や歩道に面している校舎の廊下に設置し、外からも木質化した空間が見えるようになっています。
最後には、将来的には小学校だけでなく、市内の公共施設や民間の施設にも小田原の木を使っていきたい。
と市の担当者は語ってくれました。
富水小学校の昇降口
児童の皆さんが木片で作ったアートパネル
先生方が感じた、木のある学校の風景
木質化が行われた富水小学校。
その変化は、教室の見た目だけでなく、日々の学校生活のなかにも、少しずつ表れているようです。木質化後に先生方から寄せられた声をたどると、児童の何気ない行動や表情の変化が浮かび上がってきました。
日常に溶け込む、教室と児童の変化
昇降口にも、これまでとは少し違う風景が生まれています。木製のベンチに腰かけて靴を履いたり、友だちとゆっくり言葉を交わしたり。「すごい、木の匂いがする!」と目を輝かせながら話す姿もあり、木そのものに興味を持つ児童が増えたことを実感しているそうです。
空間が変わると、学校の環境も変わる
こうした変化は、学校の内側だけにとどまりません。
保護者や地域の方からも評判は良く、「とてもいい取り組みですね」と声をかけられることも多いといいます。
地域の自然の恵みである木に触れることで、児童の皆さんが自分の住むまちへの理解を深めていく。その点でも、木質化は教育的な価値のある取り組みとして受け止められています。
木のある空間が、児童の皆さんの行動や気持ち、そして学校全体の空気を、少しずつ変えていく。
富水小学校では、そんな変化が、日常の風景として根づきはじめています。
児童の皆さんが感じた、「木のある学校」
木質化後、富水小学校では4年生から6年生にもアンケートを行いました。
毎日を過ごす学校に「木」が増えたことで、児童の皆さんはどんな変化を感じているのでしょうか。寄せられた声からは、思っていた以上に素直で、前向きな気持ちが伝わってきました。
気持ちが変わる、学校の印象
「気持ちが楽になった」「なんだかスッキリする」
木質化された校舎について、そんな言葉を挙げる児童が多くいました。木が使われたことで学校全体があたたかい雰囲気になり、これまでの学校のイメージが変わったと感じているようです。
集中できる、木の教室
教室についても、児童の皆さんの感じ方はとても率直です。
「前の教室の時より勉強が楽しくなった」といった声に加え、「集中して授業を受けられるようになった」という意見も聞かれました。
木に囲まれた空間が、自然と気持ちを落ち着かせ、学びに向かう姿勢にも良い影響を与えているようです。
におい・さわり心地が好き
「学校に来ると木のにおいがしてリラックスできる」「落ち着く」という声からは、“木の存在が日常の安心感につながっている”ことが伝わってきます。
ワークショップの様子
木の教室、ここが変わった
ビフォー・アフターの写真を見比べると、木質化によって教室の印象が大きく変わったことが分かります。
床や壁の色合い、光の回り方、そして空間全体のやわらかな雰囲気。目に見える部分だけでも、その違いははっきりしています。
小田原の未来を育てる教室
小田原市では、これまでにも市内の複数の小学校で木質化が進められてきました。
教室や廊下、昇降口など、学校のさまざまな場所に木が使われ、学びの場は、少しずつ木の香りに包まれた空間へと変わっています。木の教室は、児童の皆さんにとって安心して過ごせる場所であると同時に、自分たちが暮らすまちの森林へとつながっていることを、日々の生活のなかで感じられる空間でもあります。
森林が身近にあり、学校環境も丁寧に整えられている。
そんな場所で児童が育っていくと考えると、少しうれしい気持ちになります。 木質化は、ただ校舎の見た目を変える取り組みではありません。“児童の皆さんの心を育み、地域の山を守り、人の手と技を次の世代へとつないでいく。”暮らしの延長線上にある、静かで力強いまちづくりです。
今日も小田原の教室では、木の香りに包まれながら、児童の皆さんが学び、笑い、未来を思い描いています。
そんな日常があるこのまちは、子育て世帯にとっても、家族で心地よく暮らせる場所であり続けています。
木質化された小学校はこちらから確認できます↓
町田小学校(小田原市HPリンク) 前羽小学校(小田原市HPリンク) 大窪小学校(小田原市HPリンク) 新玉小学校(小田原市HPリンク) 豊川小学校(小田原市HPリンク) 酒匂小学校(小田原市HPリンク) 東富水小学校(小田原市HPリンク)
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