レポート
セリ市見学ツアーで見た、小田原の魚が美味しい理由
「小田原の魚は本当に美味しいよね!」
たしかに多くの人が口を揃えてこう話します。
しかし、なぜ小田原の魚はそんなに美味しいのでしょうか?
その理由を探るべく、小田原漁港で開催されていた「セリ市見学と漁港の朝メシツアー」にオダワラボ編集部の職員が参加してきました。
果たして、小田原の魚の美味しさの秘密を発見できるのでしょうか。
そもそも小田原の魚が美味しい理由
深い海、豊富な栄養
小田原は富山湾、駿河湾と並ぶ日本三大深湾の一つ、相模湾に面しています。相模湾の小田原沖は、すり鉢のように急激に深くなっており、10キロ先では水深1,000mにも達する深海です。この急激に深くなる通称"ドン深"と呼ばれる独特な地形により、浅い場所から深海まで幅広い種類の魚が生息し、 その魚種なんと約1,600種類にも及びます。これは日本全体の約4割を占めます。この豊富な魚種のおかげで、春夏秋冬の旬の味を楽しめるのが小田原の魚の魅力の一つとなっています。
さらに、小田原には市内最大の川である酒匂川(さかわがわ)や早川が流れ、そこから箱根や丹沢などの豊かな森の養分が海へと送られます。さらに栄養が豊富な深海からの湧昇流(ゆうしょうりゅう)により、陸と海の両方から栄養が豊富に供給されることからプランクトンが豊富となり、よい餌をたくさん食べて育つ小田原の魚は、 「ほどよい脂のり」、「味(甘み)」、「香り」の3拍子揃っていると評判です。
ツアー概要
今回のツアーは小田原市水産市場にて、朝の活気ある様子やセリの風景を見学した後、その日獲れたばかりの新鮮な地魚を使った漁港の朝メシを食べることができるツアーです。
ツアーを盛り上げてくれるガイド
総合ガイド
平井 丈夫さん
水産ガイド
市川 将史さん
※水産ガイドは開催回によって変わります。
小田原の魚が美味しい理由を探る
ツアースタート!
5:15 集合
早朝ですが、漁港には既に何隻もの漁船が停泊し、水揚げ作業やセリの準備で活気に溢れていました。
ガイドの平井さんと市川さんの案内で、セリの特別見学が始まります。
豊洲市場のように見学者用通路も無い古い市場のため、普段は一般の人が立ち入れない場所です。
普段の穏やかな昼間の雰囲気とは異なり、薄暗い空に市場や漁船の明かり、そして、そこに活気のある声が交じり合い、なんとも言えない幻想的な風景が早朝の小田原漁港には広がっていて、これからどんな光景が見られるのかと心が躍ります。
活魚セリ見学
5:30 活魚セリ見学
さて、いよいよツアースタートです。
まずは生きている「活魚」のセリから始まります。セリ会場には生きた魚介類を売るための大きな生簀(いけす)が設置されており、汲み上げた海水を使って魚介類を生かしたままセリにかけられます。
セリ会場には「鮮魚」も既に準備されていて、たくさんの魚が所狭しと並んでいます。事前に魚種が豊富とは調べていましたが、「まさかこれほどまでに多種多様な魚がいるとは!」と驚かされます。
ちなみに「活魚」と「鮮魚」の違いですが、活魚とは文字通り「活きている」魚で、生簀や水槽などで泳いでいる魚のことを指します。一方で氷漬けにされた魚を鮮魚と言います。
ガイドの市川さんの解説で、様々な魚を詳しく見ることができ、まるで水族館にいるかのような感覚を味わえます。この日はシイラやウツボ、サメやエイも並んでいて、「この魚食べられるの?」と思うような魚も食用として値が付くということです。
産地でしか食べられない味がある
この日はウズワと水カマスが多く揚がっていたようです。
後で調べたのですが、どちらも小田原で獲れる代表的な魚で、あまり聞きなれないウズワはソウダガツオの別名で、主に静岡県、神奈川県の一部の地域で使われている呼び名でした。
どちらの魚も鮮度の低下が非常に早い魚であるため、刺身は産地でしか食べられない魚だとのことです。
こうした、 産地でしか食べられない食べ方ができるのも漁港がある街の魅力のひとつだと改めて感じます。
こんなに魚って獲れるの?
鮮魚のセリ見学の前に時間が少しあったため、漁船から水揚げされた魚の仕分け作業も見学しました。
漁船から大きな網が吊り上げられ、その網の中には大量の魚が入っています。その網が魚の仕分け場所の上に着くと網が開けられ魚が一気に仕分け場所に広がり、仕分けが始まります。
大きな漁船の場合、水揚げも機械化されており、大きなホースで魚を吸い上げ、選別機に掛けられます。
この作業が何度も繰り返されていて、次々と仕分けされ増えていく魚を見ていると、「小田原でこんなにもたくさんの魚が獲れるんだ!これが毎日のように行われ、全国に小田原の魚が届けられていると思うと、小田原の海は本当にすごい!」と感じずにはいられませんでした。
鮮魚セリ見学
6:00 鮮魚セリ見学
活魚のセリが落ち着く間もなく、続いて鮮魚のセリが始まりました。
場内に拡声器で「〇番売場で〇〇の魚を売ります!」と放送が流れ、大勢の人が移動を始めます。
ここでガイドの市川さんから"セリのルール"の説明がありました。
「売る順番は、早く水揚げした生産者(漁場)からです。値段は1キロいくらで買うかということを買受人の言葉や「手やり」と呼ばれる方法で値段をセリ人に示し、セリ人はそのときの最も高い値段を呼び上げ、買う値段を競わせます。最も高い値段を3回呼び上げて、売り渡すことを約束し、セリ落とした業者さんのセリ札と呼ばれる紙が置かれていきます。」
その説明を聞いてから、セリを見学していましたが、このセリの速さが本当に速い!
セリは想像以上にスピーディーで、誰がセリ落としたのか素人には一瞬では分からないほど。
熟練の技と迫力ある光景に圧倒されました。
帽子の秘密
見学をしているとセリの参加者がかぶる帽子の色に違いがあることに気づきました。
市川さんによると、色は役割を示しているそうです。
- 黄色:セリに参加し、魚を買うことができる人
- 赤色:黄色帽子の人のサポートとして、セリに参加し、魚を買うことができる人
- 緑色:セリに直接関与せず、配送業務を行う人、またはセリに参加するための技術習得期間中の人
こんな些細な疑問でも、すぐに教えてもらえるのがガイドさんがいるツアーの魅力です。
ついに発見!小田原の魚が美味しい理由
セリ落とされた魚に張られているセリ札の中で、緑色のセリ札が多く見受けられました。
よく見ると、そこには「ヤオマサ」の文字。
ヤオマサは市内を中心に展開するスーパーマーケットですが、なんと自身の仲買人がいて小田原漁港から直接魚を仕入れていました。また、ツアーガイドを務める市川さんの鮑屋も市内スーパーに魚を卸しているとのことです。
セリが終わると、朝獲れの魚が店舗に運ばれ、その日の午前中のうちに店頭に並ぶというのです。
後日、実際にヤオマサさんの店舗に行ってみると、本当に多種多様な朝獲れの魚が店頭に並んでいました。
この "鮮度"を飲食店だけではなく、家庭でも普通に味わえることが、移住した方から「小田原の魚は美味しい!」と感じる理由であることが分かりました。
そして、このことは小田原で暮らす中でスタンダードになっており、中々気づかないかもしれませんが、非常に贅沢なことであると改めて感じました。
圧倒的な鮮度を味わう
7:00 漁港の朝メシ
小田原の魚が美味しい理由を理解したところで、次は漁港の朝メシです。
このツアーの一つの魅力は、セリ落としたばかりの朝獲れ地魚の刺身が味わえるということ。
朝食会場までの道のりは街歩きのスペシャリストである平井さんにガイドをバトンタッチ。
小田原漁港の歴史や豆知識などを教えてもらいながら、会場へと向かいます。
そして、漁港近くの会場である「さじるし食堂」に到着し、いよいよ朝食の時間です。
ガイドの平井さんから「こちらのお店は行列ができるほどの人気店です。普段は昼の営業のみですが、今回はツアーのために特別に貸し切って営業をしてくれました。」とのアナウンス。さらに期待が膨らみます。
席に着き、小田原漁港の歴史などのガイドを受けて、さらに小田原に詳しくなったところで、いよいよ朝食の登場です。
この日のメニューは、その日にセリ落とされた「水カマス、白鯛、ワラサのお刺身とマグロの煮つけ」です。前述の通り、水カマスは鮮度が早く低下する魚なので、刺身は産地でしか味わえません。身がプリプリで、まさに"鮮度を味わう"といった贅沢な体験ができました。
改めて小田原の魚が美味しい理由
その理由は次の通りです。
1.相模湾には豊富な魚種が生息しており、春夏秋冬の旬の味を楽しめること。
2.魚の餌が豊富で「ほどよい脂のり」、「味(甘み)」、「香り」の3拍子が揃っている。
3.漁獲から食卓まで、圧倒的な鮮度で届き、その新鮮さを堪能できること。
改めて今回のツアーを通して、
日常的に新鮮で美味しい魚を味わえることが、小田原での生活の贅沢さであり、暮らす魅力の一つだと認識することができました。
また、早朝の漁港で働く方々の姿を目の当たりにし、「日常的に美味しい魚を食べる」という贅沢は、夜中から漁に出る漁師さんや仲買人を始めとする多くの人々の努力によって支えられていることを体感しました。
「小田原の魚が美味しい」という背後には、素晴らしい環境と、関わる全ての人々の情熱と努力、これら一点一点が集まって最高の味わいが生まれる。
それが小田原の魚の美味しさの本質的理由なのかもしれません。
※漁師さんの仕事についての記事はこちら
セリ市見学と漁港の朝メシツアーについて
今回取材させていただいた「セリ市見学と漁港の朝メシツアー」の詳細はこちらから。
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