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レポート

2022.01.25

「小田原の音」が、音楽になる。(音楽家・宮内優里さん インタビュー)

「小田原の音」が、音楽になる。

市内小学校で実施された「音楽アウトリーチ事業(※1)」の一環で、作曲家の宮内優里さんと音楽家小島ケイタニーラブさんによる、即興音楽づくりワークショップが開催されました。

宮内さんはワークショップでの小田原滞在中に、市内を流れる酒匂川の環境音を録音し、後日、その環境音をベースに音楽を制作、ご本人のサイトにて掲載しています(※令和4年1月17日現在、各種ストリーミングサイトにて視聴可能)。

ワークショップのこと、小田原の音のことについて、宮内さんに聞いてみました。

※1
小田原市では、子どもたちの創造力や感性を刺激し、豊かな情操を育むことを目的として、身近な場で質の高い芸術文化に触れる機会を創出する「学校へのアウトリーチ事業」を実施しています。
アウトリーチなどの芸術文化の普及啓発に取り組むとともに、ワークショップ、セミナー、鑑賞事業を開催し、たくさんの市民の皆さまが芸術文化に触れ、理解を深める機会を創出しています。

風景の音をベースに音楽を作るということについて、楽器のみで作る場合との違いはありますか?

環境音だけで既に音として成立していたりするので、だいぶ力を抜いて作っています。特にこのLOGシリーズは僕にとっては絵日記みたいなもので、音楽の良し悪しは自分で決めずにあまり気にし過ぎないようにしています。自然と出てきた手触り感みたいなものを大事にしています。

小田原の子どもと音楽をつくってみてどのように感じましたか? 

楽しかったですよ。子どもたちの純粋な反応にグッと来たりしてました。普段はできない経験をさせてもらいました。

ただ、難しさも痛感しました。うまくやろうとすると、自分が堅くなってしまって。どこかそれは子どもに伝わっていたかも。勉強になりました。必死だったので手応えもよくわからないですけど、頑張るおじさんたちの様子から子どもたちに何か少しでも届いていてくれたら嬉しいです。

即興音楽づくりの様子。30分で1曲つくるというワークショップ

即興音楽づくりの様子。30分で1曲つくるというワークショップ

即興作曲で使用したアンケート

即興作曲で使用したアンケート

即興で音楽をつくることの難しさ、面白さについて教えてください

シンプルに、出来ない時は出来ないです。笑 そういう時は仕方ないので、引き出しや経験でなんとか形になるようにがんばるだけで。苦しんでしまう時もあります。

ワークショップでも二人で6曲作りましたけど、当たり前ですがうまく作れたものとそうでないものがあります。子どもたちにはクラスによって差があって申し訳ない気持ちもありますが、基本的にはそういうコントロール不可能なものでいいと思っていて。うまくいかない事があるって事の方が自然というか。むしろ、そのもどかしい感じは、歳を取るごとに面白くなってきました。

即興に限らないですが、何度もやっていると「降りてきた~」みたいな時があって。スポーツでいうゾーン状態というか。アイデアが溢れ出てくる瞬間がたまにあります。そういう時は本当に楽しいし気持ちいいですね。

音楽づくりの楽しみを知った子供たちにメッセージはありますか?

音楽って音が鳴っていれば音楽なので。良し悪しとかあんまり考えずに挑戦してみてほしいです。スマートフォンやタブレットで音楽制作に挑戦してみるもよし、紙と鉛筆だけ持って、鼻歌を歌いながら歌詞を書いて歌を作ってみるのもいいと思います。

それは音楽に限らず、なんでも言えると思います。昔に比べて、今は情報の面でも、費用の面でも、様々な挑戦のハードルは低くなっていることが多いと思うので、とにかく気になったものは可能な限り大人になる前にトライしてみてほしいです。やってみて楽しくなければ止めたっていいし。一度体験したことがある、というのはきっと財産になるはず。

「小田原」のまちにはどのような印象を抱きましたか?(視覚的、雰囲気、音についてなど)

小田原駅周辺の都市部の印象は、新しいものと古いものが偏りなく混在しているなあと感じました。僕はお風呂が好きなんですが、新しいビルまるごとの温浴施設があれば、古い銭湯もあったり(どちらもよかった)。新しさと古さと、どちらの方向にも色々と発見がありそうですね。桜井小学校のあたりは落ち着く~という感じのエリアでしたね。もうちょっと散歩でもしてみたかったです。

「川」が好きということですが、「川」のどのような部分が好きですか?

川というか、水のある場所が好きです。湖とか沼も好きです。海も好きですけど、不思議と淡水のほうが好きかもしれないです。なんでだろう。

どちらにしても、水の動きが激しいとあんまり好きではないですね。ゆったりとした水の動きがとても好きで。そばにいて居心地が良いんですよね。うまく言葉で説明出来ないですが、大事な感覚な気がしています。酒匂川での散歩、とても気持ちよかったです。
宮内さんの撮影した酒匂川の写真

音楽をつくる上で一番大事にしていることは何ですか?

できるだけ正直に音楽と向き合うことです。簡単なようでとても難しいです。プロでもしっかり出来ているなと感じる人はなかなかいないです。僕もなかなかうまくいかないですね。

これに関しては、大人だったり、経験を積んだ後のほうがより難しいような気がします。どうしても経験をなぞってしまったり、テクニックに逃げそうになってしまったり。ついつい理解しているつもりになってしまいます。僕も二人の娘がいますが、こういうことは子どもの方が上手ですね。無心になって何かに取り組む子どもを見ているとハッとする時があります。

今ある経験や技術を持って、子どものような気持ちで無心に取り組めたら、作品の良し悪しを飛び越えて豊かな表現ができるのではと思っています。これは自分の今後の課題でもあります。

酒匂川の音をベース制作された「LOG_20211129」が公開されている宮内さんのサイト

宮内優里(音楽家)

2006 年にRallye Label よりCD デビュー。生楽器の演奏とプログラミングを織り交ぜた、有機的な電子音楽を得意とする。作曲家としての活動も多く、映画「岬のマヨイガ」、「リトル・フォレスト」などの映画音楽をはじめ、NHK・E テレなどのTV 番組、CM、舞台など、様々な場所で音楽制作を行う。KENJI KIHARA との音楽プロジェクト「BGM LAB.」などでも活動中。

http://www.miyauchiyuri.com/
http://www.bgmlab.com

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