レポート
小田原は、自然の気持ちよさも都会的な便利さも、懐かしい"つながり"もあるまち / イラストレーター・水野ちひろさん
商業都市でもある小田原は、日々、ビジネスで訪れる人も多いエリア。
そんな仕事を目的に通っていた人が、気がついたら小田原を気に入って移住することになった…という話もよく聞くところ。
今回お話をうかがった水野ちひろさんも、その1人と言えるかもしれません。
けれど、そのエピソードはきわめてユニークで、類を見ないもの。
鎌倉のIT企業に勤めていた頃、小田原市のポイントサービス事業の担当者として、小田原に通っていたちひろさん。
加盟店である地域の事業者さんたちと関わり合い、親しみやすさや居心地の良さを感じていくうちに、小田原を好きになっていったと言います。
その後、会社は家庭の事情で退職することになりましたが、小田原の人たちとの縁は切れることなく続きました。
そしてなんと昨年、小田原市内でBARを経営する今のご主人と結婚するという、驚くべきゴールを迎えたのです。
結婚と同時に、ちひろさんは小田原に移住。
誕生した娘さんとともに、3人で小田原での新しい生活をスタートさせました。
そんなちひろさんに、小田原の印象や、ママライフに加え、新たに始めたイラストやSNSの活動について、お話を伺ってきました。
めちゃくちゃ住みやすそうな"懐かしい"まち。
「小田原がすごく好きになっていたんです」
ちひろさんにとっての小田原の印象は「いい意味で、田舎」
山口県出身のちひろさん。
自ら「(地元は)田舎です」と言うほど、のどかな環境で生まれ育ったこともあり、ずっと都会への憧れを持ち続けていました。
職場がある鎌倉での生活で、自然のある良さも感じていたところで、新たに関わるようになったまち・小田原。
まず感じたのは"懐かしさ"だったと言います。
小田原市のポイントサービス事業の担当者として仕事をしていたちひろさん
わっ!懐かしいと思ったんです。
山や海にすぐに遊びに行けるのも、山口にいた頃に似ていました」
一方で、観光地としての活気ある様子や、都心からのアクセスの良さから
「めちゃくちゃ住みやすそう。自然はあるけど、隔離されてる感じはなくて。みんながゆるくつながってる感じがいいな」
と、違った魅力としてもちひろさんの心を捕らえました。
「小田原ともっと関わりたい!」
と思うようになり、ちひろさんは会社に「週の半分を小田原で仕事したい!」と提案したといいます(当時は週1回小田原へ通勤の予定)。
その目的はもちろん、事業の環境をよく知り業務をスムーズに遂行するため…ですが、小田原の土地柄から、リアルに人と会うことや参加することの大事さを感じたこと。
そして、その熱意の根底に小田原に芽生えはじめた好意があったことは否めません。
「まちもいいし、人もいい。小田原がすごく好きになっていたんです」
仕事を離れても続く"つながり"。
結婚、そして、小田原の住人に。
そんな中、突然、山口のお母さんの体調が悪化したという連絡が。
山口に帰る頻度も高くなり、離れた土地で会社勤めをする難しさを感じるようにもなっていきました。
悩んだ末に、ちひろさんは退職することを決意。
いつでも実家に帰ることができるよう、オンラインコミュニティのイベント運営をサポートする仕事へと転職しましたが、それでも、小田原の人たちとの交流は続き、プライベートで訪れることも多かったといいます。
そうした中、同年代で話も合い、仕事に取り組む真摯な姿勢に尊敬の念も抱いていたご主人と、 縁あってお付き合いをする関係になり、昨年(令和5年)、結婚。
お母さんの体調が良くなってきたということもあり、小田原に居を構え、新生活をスタートさせることとなったのです。
花開きはじめた、ちひろさんらしいかたちの
"小田原との関わり"。
お子さんを授かったということもあり、ちひろさんの環境は少しずつ変わっていきました。
そんな時に、ふと蘇ったのが、「昔から絵を描くことが好きだった」という思い。
特にゆるい雰囲気の文字とともに描くスケッチ風のイラストが好きで、評判も良かったそう。
仕事にしたいというような意気込みからではなく、「小田原が好きなので、紹介できたらいいな」と、趣味の延長線にある楽しみとして、SNSで小田原の飲食店をイラスト入りで紹介する活動をはじめました。
すると、SNSを通していろいろな人から連絡がくるようになり、思いがけず、イラストやSNSの活動が"仕事"としてまわり出したのです。
【水野ちひろさん Instagram】https://www.instagram.com/chihiro0049
なかでも驚いたのが、Instagramで小田原の情報発信をしていた
「オダワラの」(https://www.instagram.com/odawara_no)さんからのコラボレーションの打診でした。
まず最初は、オダワラのさんが訪れる飲食店に同行し、情報発信時のイラスト紹介部分をちひろさんが担当するといった、SNS上でのコラボ。
次が「小田原にオリジナルのマンホールを設置する」という企画の、マンホールに描く絵の担当者としてのコラボでした。
オダワラのさん自らクラウドファンディングを立ち上げての大きなアクション。
描いてほしいと言われたのは、小田原を代表するモチーフの数々でした。
(クラウドファンディングはすでに終了。マンホールは小田原駅東口のサーティーワン前に設置)
※設置場所の詳細はこちら
期せずして動きはじめた、小田原での新しい活動。
今のちひろさんの何よりのやりがいは、「小田原の人に喜んでもらえること」と言います。
「元々、私が勝手に小田原で美味しいところはここです。って投稿したのをお店の人が見て喜んでくれて…っていうのがモチベーションになっていたんですが、それが派生してお仕事になったり、フォロワーの方がいつも見てますって言ってくれるのも含めて、みなさんが喜んでくれるのが1番のやりがいです」
初めて小田原を訪れた時から変わらずあった"小田原ともっと関わりたい!"という思い。
それが今、ちひろさんらしいかたちで花開こうとしています。
みんながお互いのことを知ろうとしてくれるまち。
ここで普通に育つだけでいい。
「ゆるいつながりのあるところなので、いろいろな人が子どもを認知して見てもらえている、っていう安心感があります。あと、やっぱり自然があるのがすごくいい」
お気に入りのお散歩コースは、大きく分けて"海コース"と"まちなかコース"の2つ。
お気に入りの散歩コース(小田原城址公園)
お子さんを抱えて海を、またはベビーカーを押しながらかまぼこ通りを歩き、なりわい交流館や小田原三の丸ホールを通り、小田原城のまわりを歩いて、報徳二宮神社で折り返し。
抱っこ紐の時とベビーカーの時とで細かいルートは変わってくるそうですが、いずれにしても結構な距離です。
もともと歩くのが好きというちひろさん。 けれど、山口にいた頃はあまり歩こうと思わなかったと言います。
「街灯がないとか、そういうレベルの田舎なので(笑) 小田原は少し歩くとお城があったり、見るものがいっぱいあるのが良いですね」
三の丸ホールのトイレ
"海コース"では、小田原三の丸ホールのトイレの授乳室やおむつ替えシートを利用することが多いそう。
「三の丸ホールには椅子も設置されているので、よく芝生が見えるところに座ってボーッとしています。カフェのジェラートを食べたりビールを飲んだり(笑) ひと休みすることもあります」
小田原駅周辺へと向かう"まちなかコース"は、特に赤ちゃん用の設備がある施設が多いとのこと。
駅前の商業施設「ラスカ小田原」や「ミナカ小田原」にはおむつ替えのできるトイレがあり、ミナカ6階の「小田原駅東口図書館」は休憩場所としても活用しているそう。
「図書館の中に子供のエリアみたいなところがあって、赤ちゃんがゴロゴロしてる間に、本を読んだりできるんです。
いつも大体お子さんが何人かいて、お母さんが読み聞かせとかしてるところに、私も子供と座って、ひと息つく…みたいなことをしてます」
また、同じ階にはお子さんと保護者の方が自由に過ごしたり、お母さんのリフレッシュや子育ての仲間づくりができる「おだぴよ子育て支援センター」という施設もあり、気になっているそうです。
そんな「小田原」でお子さんにどう育っていってほしいかを尋ねると、特に望むことはないと言います。
「3年くらいここに関わって気がついたのは、みんながお互いのことを知ろうとしてくれるまちだな、って」
ここで普通に育つだけでいい、というのがちひろさんの持論。
それだけで、いろいろな知り合いができたり、つながりが生まれる。 確信に満ちた表情で、ちひろさんは断言します。
「好きなように生きてくれ、と。それでたぶんいい感じになると、私は思っています」