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移住

2021.03.25

2020年5月、全国を移動(旅)しながら暮らすことができる、定額制住居サービス「ADDress」の小田原最初の拠点(小田原A邸)が、老舗のかまぼこ店や干物店が立ち並ぶ〝かまぼこ通り〟沿いにオープンしました。

2020年5月、全国を移動(旅)しながら暮らすことができる、定額制住居サービス「ADDress」の小田原最初の拠点(小田原A邸)が、老舗のかまぼこ店や干物店が立ち並ぶ〝かまぼこ通り〟沿いにオープンしました。
小田原A邸の管理人(通称〝家守(やもり)〟)が、小田原で長年まちづくりの活動をしてきた平井丈夫さんということもあり、A邸では地域の人たちとの交流も盛んに行われています。
小田原A邸は人気の拠点の一つとなり、定員8名の固定ドミトリールームはほぼ満室。
その半数ほどは、既に住民票を小田原に移し、市民になってもいます。
〝旅するように暮らす〟人の目から見た「小田原」の姿は、どんなものなのか。
小田原での暮らしや、魅力について、小田原A邸住民であり市民でもある、ライターの吉田紗和さんにお話をうかがってきました。
かまぼこ通りにある「小田原A邸」。元酒屋さんの建物をリノベーションした。

かまぼこ通りにある「小田原A邸」。元酒屋さんの建物をリノベーションした。

ポーズ

小田原駅前のライブラウンジの看板を真似た、吉田さんお気に入りのポーズ(吉田さん提供)。

〝日本を巡りたい〟思い、在宅勤務、シェアハウス経験…自分でも気づいていなかったニーズが合致して「ADDress」へ。

吉田さんがADDressの会員になったきっかけは、当時の勤務先であるゲーム会社が、コロナ禍でテレワーク体制となったことでした。
通勤のために都内で一人暮らしをしていましたが、テレワークであれば、そもそも東京にとどまっている必要はありません。
通勤していた頃でさえ、「マンションと会社の往復にすごく飽きてた」という吉田さん。実は、「いずれは日本を出たい」「その前に日本を巡りたい」という思いを密かに持ち続けていました。
けれど、その方法は〝観光旅行〟ではないとも。
吉田さんの心に残っているのは、20歳の頃に滞在した、パラオでのイメージ。
「3ヶ月滞在して、やっと本当の姿を見れた気がしたんです。パラオの若い人が抱えてる問題とか、欠点とか、そういうのも見えるくらい。その方が面白いな、と」
そんな漠然とした思いを持っていた中で、突如訪れた、在宅勤務。
そのタイミングで見たのが、TVで取材を受けていたADDress会員の様子でした。
「あ、これ楽しそうだなって。自分でも気づいていなかったニーズが合致した、というか」
かつてシェアハウスで暮らしていた経験もあり、他人と一緒に暮らすことへの抵抗もなかったため、すぐに吉田さんはADDressに入会。
空いていた千葉県の拠点を登録して、まずは、各地のホッピング生活を楽しむことにしました。

数日間で見た、小田原の色々な顔。たくさんの地域の友人や知人ができた、あたたかく濃い時間。

「第3回袖ヶ浜ビーチクリーンアップ&ひものBBQ」(2020年8月開催)での、海岸清掃の様子。
「第3回袖ヶ浜ビーチクリーンアップ&ひものBBQ」(2020年8月開催)での、海岸清掃の様子。
「第3回袖ヶ浜ビーチクリーンアップ&ひものBBQ」(2020年8月開催)で振舞われた干物。

「第3回袖ヶ浜ビーチクリーンアップ&ひものBBQ」(2020年8月開催)で振舞われた干物。

そんな吉田さんが初めて小田原に訪れたのは、入会月の半ば頃でした。
初日は、スタンダードな小田原観光。
翌日も、予定では箱根に行くつもりでしたが、その日は、家守である平井さんが主催する「第3回袖ヶ浜ビーチクリーンアップ&ひものBBQ」の開催日でもありました。
急遽予定を変更、ビーチクリーンの方に参加することに。
かまぼこ通りの老舗干物店や、小田原の地域ポイント制度「おだちん」とのコラボでもある同企画は、回を重ねるごとに人気を集めていった注目のイベント。
吉田さんがまず衝撃を受けたのは、何といっても、集まった予想以上の数の地域の人たちと、そのオープンで親しげな雰囲気でした。
吉田さんにとっては、一気にたくさんの友人や知人ができた、あたたかく濃い時間でもありました。
海岸清掃でかいた汗は、地元の銭湯ですっきり。

海岸清掃でかいた汗は、地元の銭湯ですっきり。

近くのカフェで人気のかき氷を楽しむ。

近くのカフェで人気のかき氷を楽しむ。

その後も、親しくなった友人とカフェでかき氷を食べたり、小田原に一軒だけ残る銭湯に行ったりと、
吉田さんの言うところの〝観光地ではない本当の姿〟を楽しむ一日に。
その翌日には、運の巡り合わせか、家守である平井さんのバースデーを祝う場にも同席。
味わいのある居酒屋やバーが立ち並ぶ〝宮小路〟の雰囲気も味わいました。
わずか数日間で見た、小田原の色々な顔。
その頃には、吉田さんは、「小田原に拠点を移そう」と決めていたそうです。
「みんな仲がいいじゃないですか。〝帰る場所〟と〝家族〟がいるような感じが、すごくうらやましくて。いいないいな、って」
入会3ヶ月後(※拠点を変更できる時期)の11月、小田原A邸のドミトリーに空きが出たこともあり、
吉田さんは新たな居住者となり、小田原市民となりました。

ADDress、海、ケントスコーヒーが、黄金ルート。

大好きな海で見た、綺麗な初日の出(吉田さん提供)。

大好きな海で見た、綺麗な初日の出(吉田さん提供)。

小田原にいる間、吉田さんは、ほとんど毎日海を見にいっているそうです。A邸から海までは、歩いて3分。
「今日あんまり外出てないなとか、出たいけどどこ行ったらいいかわかんないなとか、天気いいなとか。〝美しいものを見たい〟時に行きます」
小田原の海は〝美しい〟そう。瀬戸内海のような穏やかな海ではなく、魚のとれる、どこか生活感のある海。
「砂利とかがいっぱい転がってて、歩きにくいし、泳ぐのにはかなり危険じゃないですか。その人を寄せつけない感じ? 自然の厳しさみたいなものを持ってる感じが、すごくします。近寄ったらあかんで、みたいな(笑)」
ADDress、海、そして家守の平井さんが経営するケントスコーヒーが、吉田さんの黄金ルート。
「ケントスで注文して、平井さんが何かつくってる間に海行ってきたり」
かまぼこ通りを散策する吉田さん。

かまぼこ通りを散策する吉田さん。

ケントスコーヒーでのティータイム。

ケントスコーヒーでのティータイム。

かまぼこ通りのパン屋さんで買物する吉田さん。

かまぼこ通りのパン屋さんで買物する吉田さん。

他の拠点と比べても、小田原A邸の周辺は特に〝生活している空気〟があるのだそう。
リラックスしてのご近所歩きを楽しむ日々。
「なんかもう、感覚的に〝自分のエリア〟になってるのかもしれません」
雑貨店で猫と戯れる吉田さん。
雑貨店で猫と戯れる吉田さん。
ケントスコーヒーでの仕事タイム。

ケントスコーヒーでの仕事タイム。

お気に入りの過ごし方も、やはり、ケントスコーヒーで仕事をしたり、平井さんやお客さんと話したりすること。
「この間も初対面の人とおしゃべりが弾んでしまって」
吉田さんから見ると、小田原の人はみんな顔見知り同士のように見えるのだそう。
小田原以外の人からは謎のようにも見える、〝人のつながり〟。
「一体どこからどこまでがつながってて、どこからが切れてるのかなって、すごい気になります。
つなぎ始めたら、小田原の人みんなつながっちゃうんじゃないかなって」
気がつくと顔見知りが自然と増えるような、不思議な土地柄。もともとお祭りも多く、イベントも多い。
吉田さんのバースデーも小田原で。地域の人にも祝われた。

吉田さんのバースデーも小田原で。地域の人にも祝われた。

その気質からか、人情家な人も多いように感じるそう。
「世界中のいたるところから見放されても、ここに戻ってきたら大丈夫かな、って感じがしてます」
好奇心があり、あちこち旅をして色々見ているけれど、やはりどこかに帰りたくなる瞬間がある。「旅してる人は寂しがり屋な気もする。だから本当に〝帰れる場所がある〟っていう幸せを、ここにいると感じますね」
つながり合い、「おかえり」と言ってくれる場所。
〝旅するように暮らす〟人の目から見た「小田原」の姿は、生活を楽しみつつ、観光地としても
歩んできた、小田原の歴史や温度から形づくられている姿なのかもしれません。

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